千代田九条の会
ニューズレター No28(2010.5.25)


ニューズレター No28(2010.5.25)

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ニューズレター No28(2010.5.25)Web版

<事務局連絡先>千代田区猿楽町1−3−5 久野ビル3階

よびかけ人代表 鍛治俊秀、隅野隆徳、中川雄一郎

 千代田九条の会第14回シリーズ学習会
 「言論・表現の自由を考える    
    -公務員のビラ配布問題-」
  5月13日夜、千代田九条の会第14回シリーズ学習会が開かれ、専修大学法学部の内藤光博教授が「言論・表現の自由を考える-公務員のビラ配布問題-」と題して講演されました。奇しくもこの日は「世田谷国公法事件」の判決日。東京高裁は、公務員のビラ配布に対して、不当にも有罪の判決を下しました。学習会で参加者は、3月の国公法堀越事件の無罪判決の内容を学び、最高裁で両事件の無罪を勝ち取るため運動を強めることが大事だということを確認し合いました。
堀越明男さんがあいさつ
 講演に先立ち、3月29日に東京高裁で無罪判決を勝ち取った堀越明男さんが挨拶をされました。

 「中山裁判長の『付言』の中に2点すばらしい言葉があります。それは、30年前の猿払判決から、いまや時代が変わった。国民の法に対する意識も変わってきた。このことを基本にものごとを考えて欲しいということと、日本は国際的な水準で考えて欲しいということです。
 裁判長は私に対して『最高裁でがんばってくれ、あとは頼んだぞ』と言われたように思います。本日の世田谷国公法の高裁判決は30年前に戻った判決だと思います。
 宇治橋さんは有罪で、私は無罪で最高裁に臨むわけですが、国家公務員の政治的自由を勝ち取るためにがんばりたいです」

 
内藤光博さんが講演
 冒頭、内藤教授は「堀越裁判の判決は、『猿払最高裁判決 *』の枠組みを崩していないが、表現の自由の問題は民主制を支える条件だから慎重に適用しなくてはいけない、公務員の政治活動を一律に禁止するのは著しく表現の自由を侵害するもの、ひいては日本から自由を無くしてしまうことにつながるという考えが脈々と流れている判決です」と意義を述べたうえで、以下の内容で講演されました


連続した弾圧事件の背景---     
    支配者の政治体制の危機感から
 立川テント村事件と葛飾ビラ投函事件は住居侵入罪の適用を受けました。他の法律を利用しながら特定の思想、特定の政党を弾圧することにつながったわけです。
 もう一つは公務員の政治活動。いままでは日常的であった行為をも、国公法違反として逮捕・起訴をした。
 2000年代から始まった政治弾圧。これは(支配者の)政治体制の危機感の中で生まれた事件です。反対勢力が力を持ち始めたことへの不安が背景にあるのではないと思います。


公法弾圧堀越事件の概要と争点--公務員の政治活動一律禁止は憲法21条表現の自由に違反するのか
猿払事件とは
 北海道猿払村の郵政事務職員が1967年の衆議院選挙の際、候補者の選挙用ポスターを掲示・配布した為、国家公務員法第102条第1項の政治的行為の禁止に違反したとして起訴された。第一審・第二審ともに無罪だったが、検察側が上告した。1974年最高裁大法廷は、国公法が一般公務員の政治的行為にたいし刑事罰をもって規制する理由を、「行政の中立性とそれにたいする国民の信頼」におき、「行政(公務)の中立性」を「公務員の中立性」にまでひろげ、実際に行政の中立性が侵されなくてもその可能性だけで犯罪にするという乱暴な結論で有罪の判決を下した。(さるふつじけん)
 2003年、社会保険事務所職員の堀越明男さんが日本共産党の機関紙号外を休日に自宅付近で職務と関係なく配布したことを、国家公務員法に違反するとして翌年に起訴された事件です。
 1審東京地裁では、「猿払事件最高裁大法廷判決」の枠組みを踏襲し、堀越さんに有罪判決を下し、、堀越さんは、東京高裁に控訴しました。
 主な争点は、政治行為を国公法110条の1項と19項、102条1項で包括的一律に禁止していることが憲法21条1項の表現の自由に違反するのか、もうひとつの争点はビラ配布行為に適用することは違憲か?ということです。


東京高裁判決の要旨
 高裁判決は、これまでの枠組み(=74年の猿払大法廷判決)に沿いながらもそれを崩したところに判決の意義が浮かび上がってきます。それは、行政の中立的運営国公法は合憲だという立場をとりつつも、本件に罰則を適用するのは違憲だとしたことです。


憲法上の問題についての検討---   
    表現の自由が上位概念としてある
@猿払事件最高裁大法廷判決の判断基準は合理的であり、その枠組みに従う。
A表現の自由は民主主義国家の政治的基盤を根元から支えるもの。公務員の政治的行為を禁止することの規制目的は国民の信頼確保で、最も重要なのは国民の法意識であり、時代や政治、社会の変動によって変容する。
B罰則規定を合憲とした「猿払事件」に対する最高裁大法廷判決当時は国際的に冷戦下にあったがその後大きく変わった。国民は、勤務時間外の政治的行為の禁止についても、滅私奉公的な勤務が求められていた時代とは異なり、現代では職務とは無関係という評価につながる。
C本件は社会保険事務所に勤務する厚生労働事務官で、職務内容は利用者からの年金相談のデータに基づき回答するという裁量の余地のないもので、休日に職場を離れた自宅周辺で公務員であることを明らかにせず、無言で、郵便受けに政党の機関紙などを配布したにとどまる。
D被告の行為を目撃した国民がいたとしても、国家公務員による政治的行為だと認識する可能性はなかった。
Eこのような配布行為により、行政の中立的運営、それに対する国民の信頼という保護法益が損なわれる抽象的危険性を肯定することは常識的にみて困難だ。行為後、被告が公務員だったことを知っても、国民が行政全体の中立性に疑問を抱くとは考え難い。
F本件配布行為に罰則規定を適用することは、国家公務員の政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度を超えた制約を加え、処罰の対象とするものと言わざるを得ないから、憲法違反との判断を免れず、被告は無罪だ。
以上、きめ細かい認定をしています。今回は「猿払事件」の1、2審と同じ判断です。


付言---公務員に対する政治活動の禁止は憲法上問題がある
裁判長は「付言」で次の様に述べました。
@わが国における国家公務員に対する政治的行為の禁止は一部とはいえ、過度に広範に過ぎる部分があり、憲法上問題がある。地方公務員法との整合性にも問題があるほか、禁止されていない政治的行為に規制目的を阻害する可能性が高いと考えられるものがあるなど、政治的行為の禁止は、法体系全体から見た場合、さまざまな矛盾がある。
A時代の進展、経済的、社会的状況の変革の中で、国民の法意識も変容し、表現の自由、言論の自由の重要性に対する認識はより一層深まっており、公務員の政治的行為についても、組織的なものや、ほかの違反行為を伴うものを除けば、表現の自由の発現として、相当程度許容的になってきているように思われる
Bまた、さまざまな分野でグローバル化が進む中で、世界標準という視点からもあらためてこの問題は考えられるべきだろう。公務員制度の改革が論議され、他方、公務員に対する争議権付与の問題についても政治上の課題とされている中、公務員の政治的行為も、さまざまな視点から刑事罰の対象とすることの当否、範囲などを含め、再検討され、整理されるべき時代が到来しているように思われる。
以上、この付言は、国民の法意識の変化、グローバル化が進む中で世界標準という視点からも公務員に対する政治活動の禁止は憲法上問題があると述べ、将来的には法令違憲も視野に入れた内容で、見識の高い見解を示した立派な裁判官だと思います。

判決の評価
  判決は、公務員の表現の自由を肯定する論理の中で、憲法上の個人の自由に対する理解が深められたと評価できると思います。


裁判所の違憲判決の方法
裁判所の違憲判決の方法には二通りあります。
1、法令違憲・・・これは法令自体が違憲の場合です
2、適用違憲・・・法令自体は違憲ではないが、個別的な事件に適用することが違憲だという判断。
 堀越事件高裁判決はこの適用違憲です。


適用違憲に意義あり
 公務員が一市民として、職務と無関係に行う政治活動は、「行政の政治的中立性」とはまったく無関係のことですから、それを規制すべき根拠はどこにもありません。ところが、現行の公務員法は、職務と無関係に勤務時間外で職場外で行う政治活動をも広範に禁止しています。このような制限は、過度に広範な規制として、それじたい憲法21条に違反するものというべきであり、裁判所は、法令違憲の手法をとるべきであったと思います。


堀越事件高裁判決を次につなげていこう
 しかしながら高裁判決は最高裁判決に大きな風穴を開けたといえますし、私たちはこれを次につなげていく努力を怠ってはならないと思います。
(中見出しは編集部。文責福島)



 
福島徳二さんが閉会のあいさつ
 福島徳二さん(千代田九条の会 事務局次長)が「堀越裁判の高裁判決をアカデミックに掘り下げた内藤先生のお話を聞いて、大変勉強になりました。最高裁に有罪・無罪両方が上っているわけですが、『国際標準からズレている』と言われて最高裁の裁判官はどう判断するのか。われわれが『どうなんだ』と、そこを問い詰めていくことが堀越裁判の判決を最高裁の判決にするために重要だと思います。運動の面でそれを開拓していきましょう。
 過去の歴史を見ても、戦争をする時には言論弾圧がありました。言論の自由を守るということは、すなわち平和を守り戦争をする国づくりを阻止する運動につながっていくことになるのではないでしょうか。千代田九条の会もみなさんと一緒にがんばります」と結びました。

参加者による感想から
◎内藤先生の話は大変分かりやすくて面白かった。堀越さんと宇治橋さんは同じ東京高裁でなぜ無罪と有罪の判決になるのでしょうか?
◎高裁の裁判長が、猿払の最高裁判決は、国民の意識や世界標準とかけ離れていると言ったのはその通りだと思います。堀越さんが今度の(参院)選挙で革新勢力を伸ばすことがこういう状況を変える力になると言ってました。わたしもがんばりたいです。




(参考資料)
堀越事件弁護団の声明
 
1 東京高等裁判所第5刑事部(中山隆夫裁判長、高橋徹裁判官、衣笠和彦裁判官)は、本日、社会保険事務所職員(事件当時)の堀越明男氏に対する国家公務員法違反(政治的行為の禁止)被告事件について、罰金10万円、執行猶予2年とした一審判決を破棄し、無罪判決を言い渡した。
 判決は、本件のような公務と全く関係のない政治的行為を刑罰で禁止することは、憲法21条及び31条に違反するとして、堀越氏に無罪を言い渡した。
2 控訴審では、国公労働者の運動に携わってきた2名の証人と憲法、行政法、刑法、刑訴法、国際法の各分野から8名の学者証人の尋問が行われた。
 その結果、公務員の政治活動を一律・全面的に禁止する理由がないことが事実によって証明された。国家公務員の政治的行為を刑罰をもって一律・全面的に禁止することは、表現の自由を保障する憲法21条に反するとともに、国際人権規約に反し、国際的に異常きわまりないことが論証された。何より、勤務時間外に、職場から離れた自宅付近で、職務と全く関係なく行われた堀越氏のビラ配布行為は、「公務の中立的運営とこれに対する国民の信頼」を害する抽象的危険性すらない行為であり、そもそも国公法の規制対象とすべきでないこと、ましてや刑罰の対象とすることは許されないことが一層明らかとなった。
 判決は、こうした証拠調べの内容を踏まえ、堀越氏の職務内容・地位、行為態様を克明に認定したうえで、勤務時間外に、職場から離れた自宅付近で、職務と全く関係なく行われた堀越氏のビラ配布行為は、「公務の中立的運営とこれに対する国民の信頼」を害する抽象的危険性すらないものであって、こうした行為まで罰則で禁止することは、憲法21条及び31条に違反すると判断し、本件配布行為は罪に当たらないとした。
 判決は、事実と道理を尊重し、憲法と国際法の原則に沿ったものである。われわれは、裁判官の勇気ある判断を高く評価する。
3 昨今、政治的なビラ配布に対する刑事弾圧事件が相次ぐ中で、判決が、表現の自由や政治活動の自由の意義を認める判決を言い渡したこと、わが国における公務員の政治活動の禁止が諸外国と比べ非常に広範なものになっているとし、刑事罰の対象とすることの当否・範囲を含め、再検討・整理されるべき時代が到来していると判示したことは、公務員の政治的権利の回復のみならず、国民一般の表現の自由にとっても貴重な一歩を記すものである。
 われわれは、この判決を機に、憲法違反の国家公務員法と人事院規則の改廃に向けて、さらに努力したい。あわせて、表現の自由、政治活動の自由を守る運動をさらに発展させれるために奮闘する決意である。
 最後に、この間、この裁判を支えていただいた多くの皆さんに感謝の意を表するとともに、引き続くご支援をお願いするものである。

                2010年3月29日
                 国公法弾圧・堀越事件弁護団